母を背負いて・・・

戯れに母を背負いてそのあまりかろきに泣きて三歩あゆまず」だったっけ?
中学校で習ったような習わぬような・・・

母に負けず劣らず、記憶力の怪しいすばるです。




12月5日の日曜日は、とてもあたたかく穏やかな休日だったので、すばるは母を入浴させることにした。

アルツハイマーの初期症状には、
「入浴を嫌がる」というものがあるそうだが、
骨折して副木をあてていたこともあり、
母はすっかり、「お風呂」を失念している。


訪ねていくと、あいかわらずの明るさで

「あら。すばる。今日はあったかいわね~。何のご用~?」

「うん。あったかいから、お風呂入ろうか~。」

「あら。昼間から?」

「そう。たまにはいいでしょ?」

「あら。入ってくの?」

「ちがうちがう。母が入るの。」

「あら。でも、入れるかしらねぇ・・・。手がこんなだから・・・」


母の包帯は、もう、とっくにとれている。
整形外科では、リハビリを始めて、動かすように言われている。
でも、母は、そんな手首に、まるで今も包帯が巻いてあるかのようなしぐさをする。

「もう、入ってもいいって、整形の先生が言ってるからね。」

「あら。それじゃぁ、いいのかしら・・・?」

何とか説き伏せ、
入浴しようとして、脱衣を手伝うすばるに、
母は決して、肌着を任せない。

「もういいから、出ていてね。」


ときどき、自分の母が、かなり古風なことにおどろく。


入浴剤で白く不透明になった湯につかり、はじめて、

「いいお湯だわぁ・・・」

と、声をかけてくる。入室許可の合図だ。


高々と右腕を上げている格好の母に

「包帯とれてるから、お湯につけて大丈夫だよ。」

声をかけて、そっと湯船につける。

「あらぁ。ほんと~。気持ちいいわぁ・・・・」

「お湯の中だと、安心して伸ばせるでしょ?」

「ほんとねぇ・・・。」

顔を拭こうと、タオルを絞り、振り返ると、
母は高々と右腕を上げている。

「包帯とれてるから、お湯につけて大丈夫だよ。」
声をかけて、そっと湯船につける。

「あらぁ。ほんと~。気持ちいいわぁ・・・・」

「お湯の中だと、安心して伸ばせるでしょ?」

「ほんとねぇ・・・。」

シャンプーしようかと、ボトルをとって振り返ると、
母は高々と右腕を上げている。

「包帯とれてるから、お湯につけて大丈夫だよ。」
声をかけて、そっと湯船につける。

「あらぁ。ほんと~。気持ちいいわぁ・・・・」

「お湯の中だと、安心して伸ばせるでしょ?」

「ほんとねぇ・・・。」

バスタオルをとり、振り返ると、
母は高々と右腕を上げている。

「包帯とれてるから、お湯につけて大丈夫だよ。」
声をかけて、そっと湯船につける。

「あらぁ。ほんと~。気持ちいいわぁ・・・・」

「お湯の中だと、安心して伸ばせるでしょ?」

「ほんとねぇ・・・。」


・・・まぁ、いいか。


久しぶりの入浴ですっきり、さっぱりした母。

結構もとてもよくなり、
表情もはっきりしている。・・・・ように見える。

父も

「お。若返ったな・・・」

と、嬉しそうである。


・・・まぁ、いいか

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